梅王丸母の怨嗟が木霊する渓谷

琵琶首館

びわくびやかた Biwakubi-Yakata

別名:白尾館

千葉県市原市田淵字白尾

城の種別 平城(館)

築城時期

天正八(1580)年ごろ?

築城者

里見義頼

主要城主

遺構

曲輪

養老川旧河道に囲まれた琵琶首館跡<<2002年03月16日>>

歴史

天正六(1578)年、里見義弘が中風のため死去し、義弘の弟(庶子とも)で「家督を任された」義頼と、義弘晩年の嫡子・梅王丸に遺言どおり遺領が分配された。梅王丸には上総と佐貫城が、義頼には安房・下総と岡本城が与えられた。この相続をめぐっては義頼と生前の義弘が対立、義弘の葬儀には義頼を始めとした安房の重臣たちは焼香にすら出かけず、露骨に梅王丸と対立した。義頼は天正八(1580)年、小櫃谷制圧に乗り出し、久留里城千本城などを陥とし、佐貫城に迫った。梅王丸派は降伏開城し、古河公方家から義弘の正室となった生母、その娘とともに琵琶首の館に幽閉された。のちに梅王丸は岡本城に召還され、出家させられ「淳泰」と名乗らされ、岡本城近くの聖山の一庵に幽閉された。淳泰は元和八(1622)年に聖山で死去した。

「口惜しや、我が子梅王丸へのこの仕打ち、亡き御屋方様の遺命をもないがしろにし、国を欲しいままに弄ぶ義頼め、この恨み、忘れまいぞ。わらわの死後は、悪鬼となってにっくき義頼めを呪い殺してくれるわ!」

蛇行する養老川の美しい渓谷。この一角にも、戦国時代の残酷な愛憎劇が演じられました。

近世に川の流れが変えられ、まるで空堀のような地形の養老川旧河道。かつては養老川の急流が館の周りを囲むように蛇行していました。その川に守られていたのは、里見氏の相続争いに敗れた嫡流の梅王丸とその母、そして妹の三人。いや、守られていたのではなく、幽閉されていた、と言った方が正しいでしょう。この川は外敵からの防御ではなく、館の中の人々を外界から隔てるための要害になっていたのです。

里見義弘の死後の家督争い、「梅王丸騒動」とも「天正の内乱」とも言われるこの争いは、義弘の遺命により上総を継いだ嫡子の梅王丸と、安房・下総を継いだ義弘の弟(庶子とも)の義頼の争いであると同時に、安房派と上総派の争いでもありました。義弘の死後、義頼を中心とした安房派は、焼香すら行わず、佐貫城を継いだ梅王丸との対決姿勢を露にします。しかし、結果は義頼の勝利に終わり、梅王丸と古河公方家に繋がるその生母、そして梅王丸の妹の三人は佐貫城を明け渡し、この養老川上流の、逃げるに逃げられない館に幽閉されます。のちに梅王丸は義頼の居城、岡本城に移され、助命の引き換えに強引に出家させられ、「淳泰」というもっともらしい入道号を名乗らされ、岡本城近くの聖山に幽閉されます。この、義頼の無体な仕打ちを知った母と妹は、嘆き悲しみながらこの琵琶首の館で死んでゆきました。

この対立により、千本城の東平安芸守を始めとした梅王丸派が蜂起しましたが結局、千本城久留里城などは義頼の前に平定され、最後に離反した大多喜城の正木憲時も家中の寝返りにより暗殺され、義頼は上総、安房をほぼ完全制圧することに成功します。この時期、年来の宿敵であった北条氏とは和睦しており、外敵と闘う事の少なかった義頼ですが、やはり生粋の戦国大名・里見氏の血が流れていたようで、「天文の内乱」が里見氏の家勢を高めたように、この「梅王丸騒動」に端を発する内乱でも、里見氏は「焼け太り」することになります。

それにしても哀れを誘う梅王丸生母の母娘。古河公方家に繋がる高貴な身分であり(あるいは千本城主・東平安芸守の妹ともいわれるが)、梅王丸は父・義弘から鳳凰の印判も受け継いだ正統の嫡子。それがこの山間の侘しい館で、残酷な仕打ちを受けて死んでゆくことになろうとは。この美しい渓谷には、その凄まじいまでの怨嗟がいまでも、木霊しているようです。

まるで空堀のような養老川の旧河道。かつてここを流れた養老川は、梅王丸の母たちを外界から完全に遮断した。

館の背後から監視した、急峻な「城山」。ここから母娘は絶えず監視されつづけた。

ここには一軒の農家があり、館跡は農地になっていますので、あまり派手に見学することもできず、遺構は確認していませんが、おそらく天嶮の地形のみで、とくに遺構らしい遺構はないでしょう。ここに入る道はちょっとわかりにくいです。誰かに聞いた方が早いかも。

 

 

交通アクセス

小湊鉄道「上総大久保」駅または「月崎」駅徒歩30分。

館山自動車道「木更津北」ICより車50分。

周辺地情報

西に山を一つ越えれば久留里城、東に行けば大多喜城
参考文献  

関連サイト

 

 
参考文献 「すべてわかる戦国大名里見氏の歴史」(川名 登/図書刊行会)、「日本城郭大系」(新人物往来社)、「さとみ物語」(館山市立博物館)、「房総の古城址めぐり(上)」( 府馬清/有峰書店新社)

参考サイト

余湖くんのホームページ

 

 

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