攻城雑記その20 |
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国指定史跡・小田城を問う |
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15/01/31 |
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昨年十二月に小田城(茨城県つくば市)の発掘調査現地説明会に参加したときの話であるから、かれこれもう半年前のことだ。いまさらで恐縮だが、先日ちょっと立ち寄ったのでそのレポートも兼ねて、「国指定史跡 小田城」の現状を考えてみたいと思う。 小田城は筑波山麓に築かれた、広大な中世の平城である。平城の多くが耕地整理や宅地化で消えていくこんにちにあっては、中世の平城遺構がこれほど残るお城というのは言うまでもなく貴重な遺跡である。しかも、「城主不明」などではなく、鎌倉期の八田知家に発する常陸の大豪族、小田氏累代の居城である。上杉謙信や北条氏康といった、「スーパースター」級の武将たちとも繋がりの深いお城である。 この小田城、つくば市が情熱を持って発掘調査に当たっており、毎年行われているという発掘調査説明会でも貴重な成果が続々と発表されている。しかし、何かがおかしいのである。 現地の解説板によれば、小田城が「国指定史跡」となったのは昭和十(1935)年六月七日だというから、七十年近くも国指定史跡の座に就いていることになる。残存状態がよく、つくば市が史跡公園化に向けて発掘を続けるこの城郭のどこが「おかしい」というのか。 まず、当サイトの小田城の頁、ならびに「ちょっとお知らせ」でも報告したように、主郭南西側を中心とした堀沿いに「サイクリングロード」が建設されてしまっているのである。しかも、一昨年訪れた際にはそのようなものは無かったから、ここ一年ちょっとの間のものである。この部分には堀のほかに、「涼台」と呼ばれる櫓台があり、「史蹟小田城」の碑も建っている、いわば小田城の「顔」にあたる部分である。前述の現地説明会に参加して、一緒に参加した見学者から出た第一声は発掘成果物の話ではなく、このサイクリングロードについての驚き、悲嘆であった。 当局者のお話によるとこうである。「これは遺構の破壊ではない。関東鉄道の廃線跡にサイクリングロードを建設しているが、その一部が小田城の主郭に架かっている。主郭は今後発掘予定であるためここにはサイクリングロードは作れない。従って南側に迂回させた。将来的にはもっと南に迂回させる予定なので、今の状態は暫定的なものであり、地中の遺構も破壊していない」と。 念のため記しておくと、小田城の主郭にはかつて関東鉄道の線路が横切っていた。その痕跡は今もはっきりと残っている。この鉄道が敷設されたのが国指定を受ける以前なのか、後だったのかは残念ながら調べ切れていない。しかし、この時点ですでに一部の遺構の破壊があったのは事実である。 しかし、その迂回路に、こともあろうに「涼台」下の堀を通す、というのはいかがなものであろうか。いわば、小田城の「顔」に落書きをされたようなものである。一時的にせよ。それに、明らかに堀際の地形は改変されている。もっと問題なのは、果たしてこれが「暫定的処置」に留まるかどうか、疑問なことである。サイクリングロードをもっと南に迂回させるということは、自転車の利用者にはさらに遠回りをさせることになる。最初からそういうコースであればまだしも、暫定的にせよ短距離コースを作ってしまった後で、より遠く迂回させることを利用者は呑むのであろうか。もし呑まれなかった場合、この「失敗作」コースが半永久的に残ることになりはしないか。 小田城をめぐってはまだ腑に落ちないことがある。一昨年訪れた際には、関東鉄道廃線跡に軽自動車が不法投棄されていた。さすがに昨年十二月には撤去されていたが、今度は別な場所に乗用車が不法投棄されていたのである。そして今回訪れた際にも、まだその自動車は残っていた。もちろん一番悪いのは、自動車を不法投棄していったその本人である。しかし棄てる方も棄てる方だが、それをそのまま放置している行政側の対応というのもいかがなものであろうか? また、この主郭から少し外れて、集落の中に向かって何本もの堀跡が延びている。そのうちのひとつ、北東側の堀の先端は無残に砂利で埋められ、駐車場になっていた。「史跡指定範囲から外れている」といえばそれまでである。「私有地だから仕方ない」というならそれもそうである。しかし、本当にそれでいいのであろうか? 史跡というものは、国や自治体に指定されているかいないかにかかわらず、それを守るべき人々、特に地域の人々がその価値を認め、敬意を以って接するところに原点があると思う。もちろん、史跡指定を受けることで、地域の住民の方には迷惑を掛けることもあるかもしれない。しかし、そのコンセンサスを得た上での史跡指定ではないのだろうか。どれだけ考古学的な発掘が進んでも、史跡公園化が進んでも、この「原点」がなおざりにされてしまっては、史跡の価値を正しく認めたことにはならないだろう。小田城の整備がその「原点」を忘れていないことを祈りたい。 ※なお、サイクリングロードの現状については、潮風さんの「常陸国の城と歴史」をご覧いただきたい。
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