豪農屋敷に開発領主の面影を見る

笹川邸

ささがわてい Sasagawa-Tei

別名:

新潟県西蒲原郡味方村味方

 

 

城の種別 大庄屋屋敷

築城時期

天正年間ごろ

築城者

笹川氏

主要城主

笹川氏

遺構

曲輪、土塁、水堀、門、屋敷等

重文・笹川邸表門<<2004年08月13日>>

歴史

天正年間、信濃水内郡の笹川氏がこの地に入植、三代目の笹川左衛門信秀」が慶安二(1649)年に村上藩の大庄屋に任命され、味方八ヶ村を統治、明治維新まで九代に渡って世襲した。

このサイトではこれまで、中近世の武士の城館を扱ってきましたが、ここで紹介するのは江戸時代、村上藩の大庄屋として八ヶ村を支配した、豪農・笹川氏の邸宅です。しかし、単なる豪農の屋敷というよりも、中世の開発領主の館の雰囲気を濃厚に持っており、城郭ファン的にも見ごたえのあるものです。

笹川氏は信濃守護であった甲斐源氏・小笠原氏の一族といわれ、信濃水内郡で在地名「笹川」を名乗り、天正年間にこの地に入植、江戸期に大庄屋に任命されて越後を代表する豪農のひとつに成長していったということです。この小笠原氏出身、ということからみてもただの農民でなかったことは明らかです。戦国期にはこの地は吉江氏の支配下にあったのですが、吉江氏は天正十(1582)年六月三日、前日の「本能寺の変」を知らずに越中魚津城で信長の将、柴田勝家らの攻撃の前に自刃、一族もほとんどが討ち死にします。笹川氏の越後入植はこの吉江氏の穴を埋めるためのものである、という見方もあります。近くの木場城周辺でも永禄年間に信濃から十六名の入植者があり、開拓に従事したとのことですから、前例もあるわけですし、武田氏の支配を逃れた信濃の在地領主が越後に逃れ、越後の低地帯を与えられて開拓に従事した、とも考えられるわけです。

笹川邸平面図

※クリックすると拡大します。

笹川邸の周囲は高い土塁と水堀で囲まれ、北東の隅には鬼門除けと見られる切り欠きもあります。邸内には仕切り土塁と堀があり、変則方形の屋敷地を二分しています。また、萱葺きの表門は天正年間の建立といわれる上、庭園には室町時代のものと考えられる石灯籠などもあります。こうした遺構は、大庄屋としてのものとして捉えるよりも、笹川氏入封前の旧領主の館を再利用した、あるいは農民としてではなく武士としての笹川氏が築いた城館である、と考えてもよさそうです。そもそもこの時代には武士と農民の境目は曖昧なもので、豪農が刀を持ったらそのまま武士として通用する、というような時代でもありました。邸内の建物は文政年間(1818 〜 1830)に再建ということで、さすがに江戸初期や中世まで遡るものではありませんが、表屋敷には藩の役人を迎える「家老の間」などというものもあって、こちらもどことなく武士の屋敷を彷彿とさせます。

越後低地の城館は耕地整理や洪水、市街地化などでほとんどが湮滅に近い状態にありますが、こうした豪農の屋敷に在りし日の領主の生活を偲ぶ、などというのもいいでしょう。城郭ファンの方にもぜひお薦めしたい場所です。

[2004.08.22]

天正年間初期の建立とされる表門(巽風門)。大庄屋としての風格を感じさせます。 江戸後期の文政年間に再建されたという屋敷(表座敷)。屋敷は公的な政務を司る表座敷と奥向きの居室部に分かれており、居室部は一部二階建てです。
表座敷「家老の間」。藩主・役人の従者控えの間であったという。 奥の「上段の間」と手前の「ニの間」。藩主や僧侶等の対面に使用したという格式の高い場所です。
笹川家の所蔵品。武田菱が誇らしく輝いていました。 勝手口と仲の間。居室部は表座敷とは打って変わって、いなかの旧家のような質素で落ち着きのある古民家の風情を持っています。
屋敷北西の土塁を内側から。 邸内を二分する仕切り土塁と堀。ちょうどここが通路になっているのですが、屈曲する土塁・堀は横矢に見えなくもない。
表座敷前の広いスペースはいかにも「武士の館」という雰囲気を持っています。 屋敷をぐるっと取り巻く水堀。幅は広いところで3m弱ほどです。
屋敷の北東には鬼門除けと見られる切り欠きがあります。 屋敷周囲の堀と土塁。土塁は高いところでは3mほどの高さがあります。
北西の「裏門」を堀の外から。手前の堀の中には日陰で分かりづらいですが橋脚が残っています。 南西側の堀は「横矢」というほどではないにしても、緩やかな屈曲が見られます。
屋敷南西附近の土塁。 南側に隣接する諏訪神社。信濃出身の笹川氏との関連が想像されます。

 

交通アクセス

北陸自動車道「巻潟東」IC車20分。

公共交通は不明。

周辺地情報 附近に見ごたえがある城館がありません。とりあえず安田城新発田城をおすすめしておきます。豪農屋敷としては北方文化博物館となっている伊藤文吉邸などがあります。
関連サイト  

 

参考文献

「図説中世の越後」(大家健/野島出版)

「越後豪農めぐり」(新潟日報事業社)

現地パンフレット

参考サイト  

埋もれた古城 表紙 上へ